恋にうつつのCrazy!
―ACT.7

そんな陽の決心を露知らず、成巳はひたすら怒りにまかせて、自宅への道のりを急いだ。
「契約はこのさい破棄だな!」
 薫が女たちにばらすと言うのならば、ばらせばいいのだという気分にだんだんとなってくる。
 うるさい女どもが、陽に喧嘩を売ってきても、自分がちゃんと守ればいいのだ。
 何といわれようとも、陽を手放さずにいればいいのだと、だんだんと自分の都合のいいように考えが偏ってくる。
 マンションにつく頃には、そう決心していた成巳である。
 怒りの表情そのままに、マンションの中で当たり前のように待つ薫の姿を探す。
「薫!かえってきたぞ!出てこいっ!」
 学生にしては贅沢だが、さして広くもない2LDKのマンション。
 部屋を二つとも覗いたけれど、薫の姿はどこにもない。
 キッチンからはいい匂いが漂ってきてはいるけれども、それでもその料理を作っただろう人物の姿は見当たらない。
「あ、お帰りー。意外と早かったんだぁ?」
 そんな呑気なことを言いながら、浴室からバスタオル一枚を巻きつけただけの姿で薫が出てくる。
 髪を洗ったらしく濡れていて、しっとりとした石鹸やシャンプーの匂いがする。
 この気の抜けたような薫の登場に、毒気をすっかり抜けれてしまった成巳は、疲れた表情でソファに座り込んで大きなため息をもらした。
「何で、勝手に人ん家で風呂に入ってるんだよ・・・・・・はぁ」
 もう一度ため息をつきながら、気力のなえた成巳が声を絞り出す。
「何でって、今から杉本といたしちゃうからじゃないの。奇襲しとかないと駄目でしょう?」
「何をいたすつもりだ、何をっ!?」
「え?決まってるでしょ、Hに」
 薫は成巳の方へとゆっくりと誘うように手を伸ばす。
「俺はする気なぞないからな!」
 その手をバシッと弾きながら、厳しい声音で成巳が拒否した。
「まーたまた、そんな青少年らしくないこと言わないの。だって今日のデートで陽くんとやらとやる気だったんでしょ?それができないで帰ってきたんだったら、したいはずじゃない?」
 成巳の態度にめげることなく断言するようにいいながら、薫がソファに沈む成巳に近寄ってくる。
 さすが天下無敵のOL様。
 男の本能を刺激するやりかたをよくご存知のようで、その気のまったくない成巳でもクラクラとくるものがある。
「やめろよ!もう契約は破棄だ。陽のことは俺が護るし、誰にも何も言わせない!今ここでまたお前と寝たりしたら、それこそ陽に言い訳できない」
 キスしてこようとした薫の顔を向こうへと押しやりながら、成巳がそっぽを向いていう。
「・・・・・・何だぁ。もう気づいちゃったのかぁ。でももう駄目よ。逃がさないわよ。陽くんとやらに操たててた半年間の努力が今日で水の泡になるわね。ご愁傷さま」
 ガッチリと成巳の両頬を押さえ込んで、薫が上からのしかかりキスしてくる。
 暴れる成巳を押さえつけている間に、薫の体に申し訳程度にまとわりついていたバスタオルがはらりと落ちた。
 それに気づかず、二人はじたばたと暴れ、お互いをけん制し合いながらキスを続けている。
 成巳も元来フェミニストなせいで、本気で薫を殴り倒すこともできずにいた。
「ピンポーン」
 夢中で暴れている成巳と薫の耳にはそのチャイムの音が入らず、ドアは間の悪いことに鍵がかかっていなかった。
「おじゃましまーす」
 襲撃してやるっ!と息巻いていた勢いはどこへやら、陽はしおらしく断りの文句を口にして成巳のマンションの中へと足を踏み入れた。その後にはなぜか、案内をさせられた黒木の姿も続く。
 奥の部屋では人の声がするのに、どうして出てくれないのだろうか?
 などと考えながら、陽がそっと声のするリビングらしきところを覗くと、ドアの方に向いて置かれているソファの上で、成巳と裸の美人がもつれあっているのが見えた。
 成巳の硬いガードの中で育てられてきた、純粋培養の陽には、刺激の強すぎる想像もつかない情景で、あまりの衝撃に声にならない叫びを上げて、その場から飛びのいた。
 が、そこは狭い廊下。
 さらに後ろには黒木がいる。
 黒木との衝突を避けて、陽は思わず体を捻った。
 捻ったままの体勢でのけぞったものだから、もろに廊下の壁に頭突きしながら、体当たってしまったのだ。
 ぐるぐるぐるぐる頭が回る。
 視界がぐるぐると自分の上で回っている。
 チカチカと砂嵐のような灰色のモヤが意識にかかり始める頃、側で黒木と成巳の叫び声を聞いたような気がした。
 そのまま意識は深い、深い底へと沈んでいくかのように思われたのだが、
『好きだ』と成巳の切羽詰まった声が聞こえて、陽はゆっくと目を開いた。
 真剣な表情の成巳が、陽のことをじっと見ている。
 ああ・・・・・・これは半年前の初めて成巳に告白された時だ。
 と、陽はぼんやりと思っていた。
 真摯な成巳のその眼差しが自分を見ていることをずっと知っていたような気がした。
 知っていたけれど、いろんな女と遊ぶ成巳のことを信じられなくて、知らない振りをし続けてきた。
 嬉しいのか、くすぐったいのかよく分からない気持ちが全身を支配する。
『ふざけてんのか?』
 照れ隠しにそんな言葉を返した。
『好きなんだ、陽が・・・・・・』
 けれど成巳にしては歯切れの悪い、口篭もるような言い方に不安を覚える。
 さっきまでの甘い気分がドンドンドンドンと警戒心へと変わっていった。
『信じないからなっ!お前には他に恋人いっぱいいるの、俺知ってるんだぞ!?』
『別れる!陽が俺の恋人になってくれるなら、他は何もいらないから、俺』
 真っ直ぐに自分を見詰めてくる綺麗な目。
 泣きたくなるぐらい綺麗なその目から視線を逸らせなくなった。
『じゃ、証明してみせろ』
 信じたくなった。信じてみて駄目だったとしても、後悔は決してしないと思った。
『いいぞ』
 ゆっくりと神妙な顔をして頷いた成巳の、ちょっと成巳らしからぬ緊張した顔。
 それから、本当に嬉しそうに微笑んだ顔。
 どうして忘れていたのだろう?
 どうして忘れていたまま平気だったのだろうか?





続く

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★コメント★
ゴールデンウィークです!黄金週間ですっ!誰がつけたんだろう、この呼び方?
うちの会社はそんなにゴールデンでもなく、普通にカレンダー通りなんですが、それでもなんだか心ウキウキとしております。
恋クレもウキウキ終わるといいなぁ〜。




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