恋にうつつのCrazy!
―ACT.5

「陽、約束覚えてるか?」
 日に何度も成巳は陽に日曜日の外出の件を確認してくる。
 一緒にでかける約束をしてから早三日。
 いいかげんに信じてくれてもよさそうなものだが、聞きたりないのか成巳はとにかく、陽の顔を見れば必ずこうやって確認してくるのだ。
「覚えてるよ。記憶を失ったって言ったって、馬鹿じゃねーんだから、毎日毎日何回も聞くなよな。悪かったって言ってんだろーが」
 単純な陽は、成巳のこの不可解な行動を、携帯をなくした自分に対する嫌味だと受け取っている。
 単に嬉しさで確認せずにはいられないのだとは思いもよらない。
「またいつ記憶を失うかわからんだろうが?現に、俺と契約終了した当日に、お前は記憶を無くしたしな・・・・・・まだ思いだせないんだろうが?」
 じっと陽を見つめながら、探るように成巳が問うてくる。
 陽の心臓がズキンと罪悪感に痛んだ。
「いったい何の約束してたんだよ?いいかげん教えてくれてもいいんじゃねーの?」
「教えない。俺はお前が約束を忘れたことに、結構傷ついてるんだよ。できれば自分で思い出して欲しいんだからな」
「一生思い出せなかったらどうすんだよ?」
 頑固な成巳に、陽はヤケクソのように叫んだ。
「それはそれで仕方のないことだ・・・・・・。忘れたままでいいほどお前にとっては必要のないことなんだろうからな」
「そんなの言ってみてくんなきゃ、わかんねーじゃねーかよ!」
「ま、そのうちな・・・・・・そのうち俺の方が待ってるのに我慢できなくなるかもしれないし?」
 食ってかかってきそうな陽をやんわりと手で制しながら、成巳は予鈴のチャイムに自分の席へと戻って行った。
 納得のいかない陽は、ズキズキと痛み始めた頭を抱えて机の上にふて寝をする。
 最近、成巳の顔を見ると、なぜかズキズキとするのだ。
 胸もさることながら、打った頭・・・・・・というか、記憶が痛い。
 何かを思いださなきゃと焦る気持ちからくるものだと医者は言う。
「ちぇっ・・・・・・」
 明日は成巳と約束している外出する日曜。
 記憶を無くしてから、まだたったの一週間程度しかたっていないが、片時も自分の側を離れない成巳に対する陽の信用度はうなぎのぼりに上昇中である。
 つねに自分の側にいて、フォローしてくれ、初日のあの冷たい態度が嘘のように陽の世話をなにかとやいてくれる。
 きっと今までもずっとこうやって成巳の世話になってたんだろうなぁ・・・・・と考えると、妙にしっくりとくるのだ。
「何なんだよ?」
 自分の中の説明がつかない部分にはさっさとフタをするという、悩むことを極端に嫌う陽が、ふて寝から本寝に変わるのに、さほどの時間はかからなかった。

「陽、用意できたか?」
 成巳がコンコンと一応という感じですでに開けてあるドアをノックする。
「まだ約束の時間じゃねーじゃん」
 約束の時間は十一時。
 ただいまの時間は十時。
 これから起きてでかける用意をしようとしていた陽は、ベッドの中から成巳をにらみつけた。
 黒木は既に朝食を食べに行ってるらしく、部屋の中にはいない。
 ズカズカと遠慮もなしに部屋に入ってきた成巳は、寝癖のついた陽の頭をグリグリと乱暴にかき回した。
「止めろよ、子どもじゃねーぞ」
 成巳の手を払いのけると、陽は渋々と洗面所へと行き、手早く顔を洗って適当に髪の寝癖をとって、部屋へと戻る。
「俺まだ朝飯も食ってねーからな。食うまでいかねーぞ」
「外で食べないか?俺が奢るぞ?」
 成巳はふて腐れた陽の顔を苦笑しつつ、機嫌を伺ってくる。
「外で?何で?」
「その方がデートらしいだろ?」
「デート?誰と誰が?」
「俺とお前だ、馬鹿」
「はぁ?」
「・・・・・・そうだな、お前記憶喪失なんだったな。あんまりいつもと変わらないからつい忘れそうになっていかんな。じゃ、改めて言うぞ。俺はお前のことが好きなんだからな。記憶をなくす前のお前はもちろん知ってることだ。あんまり当たり前のことだったものだから、俺も言うの忘れてた」
「す、す、す、好きって、好きって!?俺は男だぞぉー!?」
 すっとんきょうな声をあげて、陽は壁際まで飛び上がるようにして成巳から離れた。
 その顔はもちろん、耳まで真っ赤である。
 自分の側から逃げた陽をおもしろくなさそうに見ながら、成巳はゆっくりと陽を逃がさないように、部屋の隅へと追い詰めていく。
「だからどうした?」
「ど、ど、どうしたって、男同士は結婚できねーし、す、好きって、好きって、お前ホモだったてーのか、成巳!?」
「どうでもいいけど、そんな名称。ホモだって言ったら抱かせてくれるのか?」
 さらりと何気ない表情ですごいことを成巳が言う。
 陽の顔はさらに真っ赤になる。
 真っ青ではなく真っ赤になる時点で、既に終わっているのだという事実に気づくことなく、陽は首を横に振りつづける。
「ばーか。俺がそんな無理やりするわけないだろうが?脅えんな。こっちに来い」
 壁際で嫌々している陽の腕をぐいっと引っ張り、自分の方へと引き寄せて抱きしめながら、成巳が小さくため息をつく。
「な、何!?」
 成巳の些細な行動にもいちいち反応をしめしながら、陽が成巳の腕の中でピクリと体をゆらした。
「何にも。ただ抱きしめてるだけだろうが?こんくらいで我慢してやってんだから、ありがたく思え」
 そう言いつつも、窺うように自分を見上げてきた陽の顎を、成巳はガシッと掴みながら、逃がさないようにしてゆっくりとキスを落とす。
 身長差15cmの二人は、一方的に成巳がキスするには調度いい押さえ込める高さである。
 反発してくる陽の腕を器用に抑えこみながら、成巳はゆっくりと陽の舌を追いかける。
 逃げる陽をゲームのようにゆっくりとゆっくりと追い詰めていって、最後には捕らえて離さない。
 長い長〜いキスの後、息も絶えだえな陽の衣服をさっさと脱がしてしまった成巳は、たっぷり一分は陽の上半身をじっくりと眺めてから、クローゼットから陽のものらしきTシャツを取り出して、すっぽりと頭からかぶせてやる。
 その間も陽はまだ硬直したままだったが、さすがにパジャマのズボンをずり下ろされそうになって、我に返った。
「てめぇっ!何すんだよ、この変態めがっ!」
「何って、着替えさせてるだけだ。変な想像してるんだったら、ご期待にそって変なことするぞ?」
 にやりと意地悪く笑いながら、成巳がそんなことを言うものだから、陽はぐっと拳を握りこんで『変態』と叫びたいのを我慢した。
 これ以上『変態、変態』と叫び続けると、
『じゃあ、お望みどおり変態になってやるよ』なんて言って、襲われかねない。
 渋々と成巳の視線から隠れるようにジーンズをはいて、陽は支度を済ませた。

「俺の1m以内に近づくなっ!」
 さりげなく腰に手を回してこようとした成巳に、陽はガウッと威嚇してみせる。
「こんなに離れて歩いてたら変だろうが?」
 威嚇してくる陽の頭を、まったく気にしていない成巳がグリグリと撫でている。
「さーわーるーなっ!」
 ブンブンと頭を振って成巳の手から抜け出した陽は、成巳の行く手に仁王立ちすると、一言一言区切って、さらに威嚇した。
「・・・・・・今の陽は差別するんだな?俺がお前のこと好きだって分かったとたん、その態度か・・・・・・前の陽はそんなことしなかったのになあ」
 ふっと昔を懐かしむみたいなじじむさい表情をわざとしてみせながら、成巳が陽の同情を引こうと落ち込んで見せる。
「そ、そういうわけじゃねーぞ・・・・・・ただ人が見てるし・・・・・」
 慌てて言い分けする陽に、くるりと背を向けた成巳はしてやったりと内心ガッツポーズである。
「人が見てなきゃ、お前の側にいてもいいんだな?」
 わざと震えるような声音で念押ししてくる。
「・・・・・・う・・・・・・ん」
 落ち込んでいる成巳を見て、しょうがなく陽が渋々と頷く。
「分かった。人が見ている前では、友達以上の振る舞いはしない。それでいいか?」
 突然にっこりと微笑んで振り返った成巳に、陽はそのギャップの濃さに、ついついこっくりと頷いてしまったのだった。




続く

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★コメント★
春だなぁ〜恋の季節だなぁ〜とぽかぽかしてきて、ちょっと気分のいいまぐです。
暑くなるのは嫌なので、春ぐらいで止めといてもらいたいもんだ〜。
今度花見の話でも書いてみたいなぁ。春かなり限定だけど(^−^;)



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