恋にうつつのCrazy!
―ACT.4

その頃、携帯をとりに行った黒木は苦戦をしいられていた。
眠っている陽が、携帯をしっかりと握り締めていていっこうに離してくれないのだ。
かと言って、強引にとってしまえば目がさめて理由を聞かれるだろうし。そんなことになれば、成巳に大目玉なのは分かりきっている。
あくまで、陽には内密にしなければならないのだ。
「何でこんなガッチリと握ってやがるんだよ?」
 はぁ〜、とため息をついてベッドサイドに座り込んだ黒木は、陽がもっと深い眠りにつくのを待つことにしたらしい。
「年上のお姉さまとのデートのためだ、頑張れ、俺っ!」
 小さくガッツポーズを作って自分を励ましながら、黒木が独りごとをつぶやいていると、陽が小さく寝返りをうってから伸びをした。
 とたんにポロリと携帯が陽の手のひらからこぼれ落ち、床へと落下してくるところを黒木がキャッチした。
「ナーイスキャッチ」
 小さく自分を誉めると、そのまま大事そうに両手で携帯を抱えて、自分の鞄の中へと携帯をしまいこむ。
 カチリと音がして、無事に携帯電話をしまいこむと黒木はほっと息をもらした。
 これで明日、成巳にこれを渡すだけでデートが実現するのだ。
 たちまち黒木の頭の中には今週末の予定でいっぱいになった。
 翌日の陽の反応を目の当たりにするまでは、呑気にもそんなことばかりを考えていた黒木である。

「ないっ!ないないないないなーいっ!」
 朝っぱらから、黒木は陽の泣きそうなどなり声で目がさめた。
 バタバタとどうやら携帯電話を探して部屋の中をうろうろしているらしい。
 泣き出しそうな陽の表情を見ていると黒木の良心がちょっぴりと痛んだけれど、そこは目を瞑って何気なさをよそおう。
『俺は奴隷、杉本の奴隷なんだ。決して逆らえないんだ』と自分に暗示をかけてから、黒木は大きく伸びをした。
「朝っぱらからなんだ、陽?」
「け、け、携帯がないんだー!またなくしちまったー!今度こそ何されるかわからねーじゃねーか!」
 頭を抱えて陽がばったりとその場に悶死する。
「陽、大丈夫かっ!」
 昨日のこともあるし、不安になった黒木が二段ベッドの上から飛び降り陽に近づき揺り起こすと、がっしりと陽に腕をつかまれてしまった。
「あ、あ、陽くん?な、な、何だい?」
 冷静さを装ったつもりが、声が震えてかえって怪しい。
「あいつ、えっと、成巳が迎えにきたら俺は熱出して寝てるって言っといてくれねー?」
 陽がそう言ったとたんに、部屋のドアがまたしても無断でバタンと勢いよく開けられた。
 当然、そこには成巳が立っている。
「迎えにきてやったぞ、陽。さっさとしたくしろ」
「・・・・・・」
 陽と黒木は神妙な顔をして、成巳をいっせいに振り返った。
「何だ?」
 成巳が不思議そうに尋ねてくる。
 こうなったらと、潔く観念した陽はザッシとその場に立ち上がると、成巳に向かって深く頭を下げた。
「どうした、陽?」
「携帯なくしたみてーだ、俺。謝ってもすまないことだって分かってるけど、見つからねーんだ」
 深々と頭を下げている陽には見えないように、成巳は素早く黒木へと目線を投げかけてくる。
 それに対して、黒木は小さく頷いてみせてから、自分の学生鞄を目線で指し示した。
 小さく成巳が頷く。
「陽、頭をあげろ。もういい。一度お前に渡した携帯電話を返せと言った俺の狭量だ。気にしなくていい。携帯は解約してまた新しいものを買う」
 もとより、返してもらう気などなかったのだが、自分を忘れた陽に対する単なる意地悪のつもりだったのだ。
 ただ、薫に知られてしまった今は、他の女たちに知られる前に陽の元から携帯を取り戻さなければならない事情に変わったのだ。
「買う?」
 成巳の言葉に反応して陽はすぐに顔をあげる。
 携帯電話をポンッと買い換えられるほど高校生のこづかいは高くはなく、ましてうちの学校はバイトなどはいっさい禁止の進学校である。
「悪いと思うなら、週末に外出届を出して、俺の買い物につきあってくれればそれでいい」
 あまりに反省しているらしい陽を少々気の毒には思うものの、してやったりという気分の方がどうも勝るらしく、成巳は小さく唇の端をあげて、陽に分からないようにほくそ笑む。
「で、でも買うなんて、そんな金あんのかよ?」
 納得いかない様子で、陽が聞いてくる。
「お前は忘れているようだけどな、ちまたじゃ、携帯電話なんて0円から売ってるところがたくさんあるんだよ」
「そうなのか?」
 忘れているというより、文明の利器にめっぽう弱い陽は、記憶喪失前からそんなことは知りはしない。
「ただ一人で出かけてもつまらないし、陽が一緒にきてくれるならその方が助かるんだけど、どうだ?」
「そんなんでいいなら、行くぞ、俺!」
 成巳の示してくれた妥協案にホッとしながら、陽が大きく頷いた。
 その隣では黒木が青ざめた表情をしている。
 成巳は目線で黒木にクギを刺しておきながら、まだ学校へいく用意を何もしていない陽の側で、てきぱきと用意を手伝ってやりはじめた。

 仲良く登校していく二人の後ろ姿を半歩遅れてついていきながら、黒木はどうも自分も陽も成巳にはめられたのだということに、ようやく気づいた。
 最初から陽と出かけたいがために、自分に陽から携帯電話を取り戻させたのだ。
「ま、陽が素直に一緒に出かけたりするわけないしな・・・・・・気持ちはわからんでもないか」
 陽が記憶を失っている今でこそ、成巳の方が主導権を握っているように見えるが、実はそうではない。
 女遊びが有名なのと同じくらい、成巳が陽に惚れているというのも有名な話で、それに対する鈍い陽の態度はまったくの幼馴染に対するもので、成巳はつねに陽に詩文の気持ちを理解してもらうために、涙ぐましい努力をし、陽の我儘は何でも聞いてやり、護り、与えと、日ごろからかなり陽には弱かった。
 デートなんて夢のまた夢であるらしい。
 さっきから時折見える成巳の横顔は、頬がゆるみっぱなしにっている。
 いつもは陽に近づく野郎がいようものなら、ツンドラのような冷たい視線と冷たい容赦ない言葉で撃退していくのだが、今日は機嫌がすこぶる良いらしく、額に怒りマークが浮かんではいるが黙認している。
 陽の機嫌を損ねて、せっかくの約束がなくなっては大変と思っているのも一部窺えるが、それでも成巳にしては涙ぐましいまでの我慢であるなぁ・・・・・・と黒木は思う。
「あんなに女のもてんのに、何で陽がいいんだ?」
 こっそりと成巳の悪趣味を毒づきながら、黒木は今回の件には目をつぶってやろうと決めたのだった。


続く

<<Back                                                     Next>>


★コメント★
一週抜けての続きでもうしわけないです。  
そしてやっぱり恋クレでした(^−^:)
空フルはまだかけないなぁ・・・ひろかわちゃんごめんね。頑張ってかかねばね!最近小説書き二人してさぼってるので、ほんと申し訳ないっす。反省・・・しかし今は冬のシーズン・・・そしてもうすぐ花見のシーズン・・・うぅ〜忙しい(>,<)
時間が24時間じゃ足りない!いや、休みが週休二日ってのが足りないのだ!
はい、言い訳コーナーでした(笑)



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送