【空から降る雪vol.28


残された雪哉と嘉人はお互いから視線を逸らせずに、ずっと立ち尽くしていた。
しばらくそうしていたのだが、周りから集まってきている視線に気付き、嘉人が素早く行動する。
雪哉の手を引き、ホテルに取っている最上階の部屋へと移動した。
万里には頼んで先に屋敷へと帰ってもらっている。
今にも怒りそうな万里だったけれど、周りの視線がある中で癇癪を起こすわけにもいかずに、黙って嘉人の言葉に従った。
ただし明日の朝の出発には必ず間に合わせるようにと言い残して。
たった一晩ぐらいならば餞別に見逃そうというのか。
それともケジメをつけて戻ってこいというのだろうか。
万里の真意は測りかねたが、それでも嘉人にはその一晩が必要だった。
雪哉とこのまま離れてしまうわけにはいかなかったからだ。

「痛いっ!手、そんな強く引っ張るなって、嘉人!」
 ぐいぐいと引っ張られる手に痛みを訴えて、雪哉はなんとか嘉人から離れようとした。
 怖かった。
 覚悟を決めたはずなのに、そのタイミングを逃されてしまうと、心の準備がまた必要になる。
 嘉人が自分に何を言うつもりなのか、何を今考えてこうして自分を連れて行こうとしているのか、雪哉には分からなかった。
 雪哉の背中を押してくれた西村は『言い訳だけでも聞いてやれば?』と微笑んでいたけれど、今の嘉人は言い訳をしにきたなんて愁傷な表情ではなかった。
 噛み付かんばかりの鬼気迫る形相に、知らず雪哉の顔も強張ってくる。
 最上階のスイートに、たぶん今日嘉人は万里と泊まるはずだったのだ。
 そこに自分を連れて行ってどうしようというのだろうか?
 万里がいるはずのその部屋に、雪哉は行きたくなどなかった。
 必死で抵抗する雪哉を嘉人は苛立ちと共に扉の内側へと閉じ込める。
 勢いづいたまま、雪哉の体は極上の絨毯の上に転がりこんだ。
「痛ってぇ!」
 たいして痛みも感じなかったが、この理不尽な扱いに、雪哉はわざと声を荒げて痛みを訴えてみせる。
 ハッとしたように正気に戻った嘉人が、雪哉の前に屈みこんだ。
「すまない、どこか怪我でもしたか?」
「・・・・・・」
 膝をつき、雪哉を気遣う嘉人のその目があまりにも優しくて、雪哉は戸惑いとともに見つめ返した。
 さっきまでの鬼気迫る形相がどこかに消えてしまっている。
 優しい、愛しいものを見る懐かしい眼差し。
「雪・・・・・・」
 雪哉は自分を『雪』とよぶ嘉人の声を久しぶりに聞いたような気がする。
 愛しい思いを込めてささやかれたその名は、姉の身代わりでいた頃の自分への呼び名。
 今更嘉人がなぜそんな名で自分を呼ぶのか、その意図が雪哉にはわからなかった。
 見上げる視界の中で、嘉人がもう一度『雪』と自分のことを呼びながら、近づいてくる。
 ゆっくりと降るような口付けを受けながら、雪哉は震える瞼をそっと閉じた。


 

 


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★ コメント★
短くてすいません(T.T)
いや、なんかね、もうそろそろ終わるなぁ〜と思って、一話から見直していたら、なんかぼろぼろつじつまの合わないことがでてきてまして・・・誰も発見しないで(>.<)
て感じで・・・。反省して、もう一度一話からじっくり読み直した上で、続きを書いて行きたいと思いますので、
今回はこのあたりで・・・。
そんで再来週ですが、年末でちょっと書く時間がないぐらい忙しいので、
できれば年始にどーんと最後までいってしまうおうかなぁ・・・と考えております。
ちょっと今の段階ではわかりませんが・・・・。とりあえず反省しつつ、一話から読み直して頑張りますっ!

 




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