【空から降る雪vol.27


結局、雪哉の気持ちは伝わったのか、伝わらなかったのか分からない。
嘉人は何も言わなかった。
ただ雪哉の言葉を困惑した思いで見つめながら聞いていた。
 じっと、真意を探るように雪哉を見つめ、雪哉の両肩にそっと手を添えた。
 何か言いたそうに口を開きかけた時、またもや扉が外から叩かれた。
 雪哉の気がそちらにそれたのを見て、嘉人も扉を見つめ、何も言わないままゆっくりと雪哉をエスコートして出口へと向かった。
 そのまま心配する親族やホテル側の人間に囲まれて、二人は別々に本来いるべき場所へと連れて行かれてしまった。
 それから火事騒ぎが収まり、会場を移しての披露宴のしきりなおしが行われ、めまぐるしいぐらいバタバタとした時間の流れに、雪哉は結局嘉人の返事を聞くことができなかった。
 明日から嘉人は万里と新婚旅行に出てしまう。
 しばらくまた会えなくなってしまうのだ。
 不発に終わった自分の爆発に、雪哉は見るからに元気を無くしてシュンとしてしまっている。
 次々と会場からあいさつを終えて帰宅していく招待客の流れをぼんりと見つめながら、雪哉はホテルのロビーに脱力したままソファに座り込んでいた。
 忙しい源蔵や智子は、披露宴が終わり、招待客にあいさつを済ませるともうすでに仕事のスケジュールが押してきているらしく、渡航の準備をしに行ってしまった。
 ガラス張りになっているホテルのロビーから暗闇が押し寄せくるように見えた。
 その暗闇の中をちらりちらりと白い雪が舞い始める。
 暖房の利いているホテルの中では寒さを感じるはずもなく、その雪を見ながら雪哉は不思議な気分になっていた。
 寒さの中、嘉人と気持ちをはじめて通わせたあの瞬間を思わずにはいられない。
 あの時と変わらない情熱が自分の中に潜んでいる。
 気持ちはちゃんと伝わったのだろうか?
 嘉人に自分の気持ちをわかってもらえたのだろうか?
 嘉人が自分を必要と言ってくれるならば、もう二度と諦めないと決めたはずの心がぐらぐらと揺らいでくる。
 人を愛するということは、己の中の弱い部分をまざまざと見せ付けられるのだということ。
 誰もがみんないろんな気持ちを抱え、葛藤し、悩み苦しみ、それでも気持ちを止められないことを愛というのだ。
 雪哉の脳裏に嘉人の姿がくっきりと浮かぶ。
「・・・・・・・嘉人」
 雪哉は涙の出そうな両目を覆い、ゆっくりとソファに沈みこんだ。
 すぐ側で気配がする。
 両目を覆っていた手を外し、自分の傍らに視線をめぐらすと、西村がいつの間にか心配そうに側に立っていた。
「ちゃんと話せなかったのかい?」
 雪哉の落ち込んだ様子に、西村は心配そうに言葉を選びながら話かけてきた。
 ゆっくりと雪哉の隣に腰を降ろす。
「・・・・・・俺の気持ちは全部言った。でも嘉人の返事は聞いてない。明日からしばらくまた会えないだろうし・・・・・・旅行から帰ってきたとしても、いろいろ挨拶周りとかあるだろうから」
 雪哉は溜息とともに、言葉を吐き出した。
 西村の前では弱い自分が顔を出す。
 何が悲しいのか分からないけれど、今にも泣き出してしまいそうな子どものような自分がいて、声が自然と震え出す。
 喉の奥が熱くなり、ぐっと涙を飲み込むように雪哉はもう一度両目を手で覆った。
 深い溜息をついた。
「伝わってるよ、君の気持ちは。そんな泣きそうな顔はやめて。ほら、そんな顔してると抱きしめたくなる」
 そっと雪哉の髪を横から手を伸ばして撫でると、西村は言葉どおり雪哉の肩をそっと自分の胸へと抱き寄せた。
 いつもの雪哉ならば、暴れ出しかねない所業だったけれど、今は弱い気持ちが西村に甘えることを許容しているようだ。
 黙ってじっと西村の胸に頭を預けている。
「・・・・・馬鹿じゃねーの?」
 それでも憎まれ口を叩くことだけは忘れない雪哉の意地っ張りに、西村が甘く笑いをもらす。
 腕の中の存在が愛しくてたまらないのだ。
 たとえその気持ちが違う誰かを思っていたのだとしても、甘えてこうして気持ちを預けてくれるのは自分の前だけだと西村は自覚していた。
 その雪哉の気持ちが恋でなくてもいいと思っている。
 自分が雪哉にとって特別であることには変わりないからだ。
 この位置はたとえ嘉人でも得ることはできない。
 性格の違いというのだろうか?
 自分は雪哉のことはきっと嘉人よりもよく分かっているのだ。
 だからずっとこれからも雪哉の側にいて、見守り、雪哉が自分の手を必要として振り返る時にはずっと側にいてやりたいと思う。
 雪哉が休める唯一の場所が自分だから。
 西村はそんな甘く切ない気持ちを噛み締めながら、そっと雪哉の髪にわからないように小さくキスを落とした。
 ロビーがざわめき始めた。
 西村はそっと雪哉の肩から手を離し、ざわめきはじめた方向に視線を巡らせた。
 予想どおり、そこには嘉人が息を切らしながら立っている。
 よほど慌てて周りの制止を振り切ってきたのだろう。
 着替えもそこそこに乱れた髪のまま肩でハァハァと息をしている。
 よく見る嘉人の顔だと西村は思った。
 昔よく見た良く知る嘉人の顔だと。
 親友は戻ってきたようだ。
 そして何かを決心したのだろう。西村は小さく笑いをもらした。
 自分は失恋するばすなのに、なんだか嬉しいのだ。
 雪哉の幸せを願っている。
 できれば自分が幸せにしてやりたかったけれど、嘉人のことも幸せになって欲しいというのは嘘偽りのない気持ちだった。だから嬉しいのかもしれない。
「恋すると誰でも馬鹿になるみたいだね。ほら、あそこにも馬鹿な男が一人いるみたいだ」
 西村はそっと雪哉の背中を押した。
 行けと言うように。
 雪哉は何がなんだか分からずに、嘉人と西村を交互に見ている。
「言い訳だけでも聞いてやれば?」
 そう言って西村静かに微笑むと、そのままゆっくりとロビーを後にした。


 

 


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★ コメント★
失恋ときたか・・・・西村(T.T)
悲しいよぉ〜西村とくっついて欲しかったんだけどねぇ、私は。

 




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