【空から降る雪vol.24


「嘉人?何してるんだよ?早く避難しないと駄目だろうが?」
 雪哉が出口に立ちふさがるように立つ嘉人に声をかける。
 視線を雪哉に向けた嘉人の表情からは何も伺えない。
 さっき感じた違和感。
 それがそのまま今嘉人に残っている。
 見たこともない知らない人間がそこにはいるようだった。
「笹川、ふざけている場合じゃないぞ!」
 西村もいつもの西村らしくなく、きつく嘉人に言葉を投げつける。
「雪哉を返してもらう・・・・・・・雪哉、こっちへこい」
 西村の側に立つ雪哉に苛立ったように、嘉人が手を差し伸べる。
「返す、返さないって、そんなこと言ってる場合じゃないだろう。雪哉くんが火が苦手だってお前も知ってるだろうが!?」
怒ったように西村が嘉人を諭しても、いっこうに嘉人は動こうとしない。
視線をピタリと雪哉に当てたまま、無表情で見ている。
我慢しきれなくなった西村が、出口からどこうとしない嘉人の側から、雪哉の手を引っ張ったまま強引に抜けようとする。
それより早く動いた嘉人が、火のついたままのキャンドルを近くのテーブルから取り、出口付近の絨毯へと投げつけた。
西村が雪哉を庇うように抱きかかえ飛びのいた。
雪哉の体がビクリと揺れる。
「何をするんだ、笹川っ!お前正気なのか!?」
「・・・・・・正気じゃないかもな・・・・・・手を離せ、西村。雪哉に触るな」
 投げつけたキャンドルを、拾いなおし、それを手にしながら嘉人が西村と雪哉の側に一歩づつ近づいてくる。
 西村は嘉人の様子を伺いながら、ゆっくりと雪哉から手を離した。
「雪哉、こっちへ来い」
 嘉人がもう一度雪哉へと手を差し伸べる。
 その顔は無表情のままだ。
 雪哉は嘉人の手に握られたキャンドルの火をなるべく意識しないように、深呼吸すると、小さく頭を振った。
「・・・・・・行ってどうするんだよ?そのロウソクでここ燃やして、俺と心中でもするつもりかよ?」
「それもいいな」
 雪哉の言葉に、嘉人がおかしそうに笑いをもらす。
 どうしたいかなんて嘉人自身にも分からない。
 ただもう我慢の限界だった。
 自分以外の人間の側にいる雪哉の姿を許容することが。
 雪哉が手に入るのならば、このまま二人で死んでもいいかもしれないとすら考える。
 遠くでサイレンが鳴り響く音が聞こえている。
 階下の火事の様子もわからないまま、このままにいるのは危険だと頭のすみでは分かっているけれど、そんなことすらどうでもいい気がしている。
 万里のことも、笹川のことも、今は何もかも、雪哉以外どうでもいい。
 自分は狂ってきているのだろうか?
 このまま狂っていくのだろうか?雪哉を道連れに・・・・・・・?
 

 


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★ コメント★
心中か〜。火に焼かれて死ぬなんて嫌だな、私(^−^;)
ホテルの下の火事はどんな感じなんでしょうね・・・・はは。
 




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