【空から降る雪vol.22


西村の側で笑う雪哉を見ると、体中の血が沸騰しそうになる!
 何の駆け引きもない、ただお互いの存在を許しあっている二人の間柄が、側で見ている者にも伝わるぐらい親密に見える。
 笑顔でいろんな人たちから祝福を受け、それに応え、その傍らでよりそう二人を見なければならないことは、思った以上に嘉人の精神に負担をきたした。
嘉人の心はすでに限界近くまできていた。

「雪ちゃ〜ん、本当にうちに戻ってこないの?」
 いろいろな人たちに一通りあいさつを終えた智子が、座席に戻るなり雪哉にからんでくる。
「うん。しばらく西村さんのとこにやっかいになるつもりなんだ。智子さんたちに会えなくなるの寂しいけど、修行が思ったより楽しいんだよ。仕事する楽しさってやつ?いつも智子さんや源蔵さんが飛び回ってる気持ちがやっと分かってきたぜ」
 智子自身も仕事で海外を飛びまわっていて、一緒に暮らす雪哉ともなかなか会う機会がないぐらいで、雪哉の言う仕事の楽しさの意味が分かるせいか、雪哉を連れ戻そうと息巻いていた気合をため息とともに吐き出した。
「仕事が楽しいって言われちゃったらどうしようもないわねぇ。確かにうちに一緒に住んでたって、雪ちゃんと会えるのは仕事のせいで、半月に一度ぐらいだし・・・・・・でも寂しいわぁ。うちに帰ったら、あんな愛想のない子が一人待ってるだけだなんて。いつも雪ちゃんとお茶するのを楽しみにしてうちに帰ってたのよ」
 目に涙を浮かべんばかりの勢いで、智子が雪哉の手を取りながら力説してくる。
 雪哉はおどけたように、小さく肩をすくめた。
 智子も源蔵も好きだが、もう決めてしまったことだ。
 今更笹川の家に帰るなんていえるはずがない。
 高砂で微笑む万里の顔が視界の隅によぎる。
 幸せを一身に受けたように、世界で一番綺麗な花嫁を万里は誰の目にもそうと映るように見せている。
 言い出したのは万里だけれど、それはきっかけに過ぎなかったのかもしれない。
 どちらにせよ答えは今日出さなければいけなかったのだから。
 それを決めかねていたのは自分。
「万里さんがいるじゃん。嫁って可愛いもんなんじゃないの?女同士の方が楽しいぜ、きっと」
「雪ちゃんはだめね。嫁姑のことをなんにも分かってないのね。お嫁さんとお姑さんはあんまり仲良くしすぎるのも駄目なのよ。仲良くしすぎると不満が増えるから。適度な距離を保つのが嫁姑が仲良くする秘訣なのよ。だからあんまり万里さん万里さん言えないのよぉ。私はこう雪ちゃんみたいに猫ッ可愛がりたいんだけどねぇ〜。あ〜ほんとに、こんなに可愛いのはあなただけだわ。嘉人はこんなおめでたい日にもなんだか不機嫌だし、ほんとに愛想のないこと。万里さんもあんな無愛想な子を旦那様にするなんて、可哀想だわ。私だったらお断りだわ、ね、源蔵さん?」
「私と嘉人はよく似てると言われるがね・・・・・・」
 智子の同意の言葉に苦笑しながら、源蔵が応える。
 不機嫌だと言われている高砂席に座る嘉人にチラリと視線をやって、さらに苦笑がもれる。
 ポーカーフェイスを装ってはいるが、親しい人間が見れば、嘉人の機嫌が悪いことは明らかだった。
「あ〜ら、あんな無愛想な子、ちっとも源蔵さんに似てないわ。こんなおめでたい日に、どうしてあんな無愛想な顔してるのかしら。雪ちゃんがいなくなってから、よりいっそうひどくなったわ〜あの子の愛想のなさが」
「そうだね。嘉人は雪哉のことをそれは大事にしていたからね。兄の座を西村くんに奪われたようでむくれているのかもしれない。雪哉、嘉人のためにもたまにはこちらに顔を出してやってくれないか?あれはいつもお前のことを心配している。お前を西村くんのところに出したことをずっと責められていてね・・・・・・だが嘉人の反対を押し切って出してよかったと思っているよ、私は。嘉人の側にいたお前は自分の殻に閉じこもったままに見えたよ。嘉人が可愛がれば可愛がるほど、お前はどんどん本当の自分を隠していっているような気がした。しかも嘉人はそれに気付かない。嘉人の側に雪哉がいることが当たり前のように思っていて、放任しておいたが、今回の結婚話で思い切ってよかったようだ。しばらく見ないうちに男っぷりがあがったな、雪哉」
 雪哉の方を見ながら、優しい目でにっこりと源蔵が微笑んだ。
 雪哉の胸がじんと熱くなる。
 源蔵に認められるにはまだまだ頑張らなければならないけれど、それでも自分の選択が間違っていなかったのだと、今確信した。
「俺・・・・・・頑張るから。いつか源蔵さんや、智子さんや、嘉人のこと助けられるぐらいに。今まで守ってもらった分、今度は俺が守り返せるように、頑張りたいんだ」
「楽しみにしているよ、雪哉」
 もう一度微笑んだ源蔵に、雪哉も微笑み返した。
 その様子を嘉人はじっと見ていた。
 雪哉に微笑む自分の父の姿ですら腹が立つ!
 雪哉に触るものすべてが憎く思える。
 雪哉の気持ちが分からないのかと源蔵に何度も言われた。
 自分たちのために成長しようとしている雪哉の羽ばたきを止めるなと。
 けれど手を離して見守っていた結果がこれだ。
 完全に自分の手を離れていってしまおうとしている。
 気が狂いそうになる!
 笹川の当主としての義務なんか今すぐに放り出して、雪哉をさらって逃げてしまいたい衝動に駆られた。
 その思いを限界ぎりぎりに、理性でなんとか押し留め、笑ってここに座っている。
 あとほんの少し、何かが起きれば嘉人をかろうじて押さえているものがハズレようとしていた。

 


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★ コメント★
やばそうですね、嘉人さん。
このままでは犯罪をおかしそうな勢いです(笑)ハッピーエンドが遠くなっていくわぁ〜(^−^;)
 




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