【空から降る雪vol.19


トクトクっと注ぐお茶が、ぼんやりとしている間にいつの間にか溢れているのに西村が気付いたのは、回りのメイドの心配する声を聞いてからだった。
 朝の食事はできるだけ雪哉ととるようにしていた。
 それは雪哉を西村家に連れてきてからほぼ毎日の習慣にもなりつつあった。
 いつもの風景。
 いつもの食事。
 いつもと同じようにただ雪哉が目の前にいるだけで、心臓が変な感じになる。
「大丈夫か?」
 いつもと同じように雪哉が声をかけてくるけれど、西村はいつものように彼を見ることができずに目を逸らした。
 昨日の夜突然自分に訪れた感情に、西村は苦しんでいる。
 人を好きになる気持ちというのは、こんなにも突然自覚するものなのか?
 こんなにもその相手に対して緊張するものなんだろうか?
 それが昨日までは平気でいた相手であっても、その気持ちを自覚した途端にこうも不自然な態度をとってしまうほどに感情というものは手におえないものだったのだろうか?
 どちらかと言うと、西村は自分のことを理性的な人間だと思っていた。
 感情的に動く嘉人のことを、羨ましくもあり反面哀れにも思うこともあった。
 彼の激情は傍で見ていて怖いくらいだ。
 どうして感情をそんなにコントロールすることができないぐらい人を好きになることがあるのだろうかと本気で不思議に思っていたのはつい昨日までのこと。
「もうあんま時間ねーぞ」
 朝食を終えた雪哉が西村をじっと見ながら、席を立つ。
 昨日の夜のことなどまったくなかったかのように、雪哉の態度はいつもと変わりない。
 その事実に西村は身勝手だとは思いつつ腹立たしく感じる自分に驚いた。
 席をたった雪哉を追いかけ、朝食もそこそこに西村は食堂を後にして廊下を早足で歩いていく。
 ゆっくりと歩く雪哉の後ろ姿をとらえ、その腕を後ろから引いた。
 一瞬ビクッと身を竦ませた雪哉は、ゆっくりと何でもない風を装って振り向く。
 いつもと変わらないと思っていたのは、雪哉がそれを必死で隠していたからだった。
 自分を隠すことに慣れている雪哉。
 いつもこうやって嘉人の前では何も気付かない振りをし続けてきたのだろうか・・・・・・?
 西村は初めて気がついた。
 雪哉が自分の前ではなんの感情も隠すことなくさらけ出して本当の雪哉自身で接してくれていたことに。
 それに気付いた西村は雪哉への感情でいっぱいになる。
 合わせずにいた視線を雪哉へと向け、西村は覚悟を決めた。
 昨日気付いたばかりのこの気持ちは、冗談でも何でもない。
 自分の本当の気持ちだと言うことが今分かった。
 自分は雪哉が愛しいのだ。
 愛しくて愛しくてしかたないのだ。
 いつの間にか惹かれていた。
 いつの間にか好きになっていた。
 彼が自分ではない者を好きだと承知の上で。
「昨日は・・・・・・疲れてたからじゃない。どうやら俺は君のことが好きらしい」
「はぁ?」
 突然の西村の告白に、雪哉は大きな目をさらに大きく見開いた。
 雪哉もまた昨日の出来事にいっぱいいっぱいで、西村の気持ちまで想像できなかったようで、心底驚いている。
「雪哉くんが笹川のことを好きな気持ちはもちろん知っているから、今すぐどうこうするつもりはないけど・・・・・・冗談で済ます気は俺にはないよ。結婚式で君が笹川に会って、答えが出てからでいいから、とりあえず俺が君を好きだってことは覚えていて欲しい」
 今日の嘉人の結婚式で、雪哉の気持ちにもなんらかの答えが見つかるはずである。
 西村はそれをかけてみることにした。
 今ここで自分の気持ちを伝えることは、雪哉の中での一つの波紋になる。
 雪哉の中の気持ちに一滴のしずくを落として波紋を作ってみたのは、西村の賭けだった。
 それが凶とでるか吉とでるか・・・・・・・。
 ただ、思いを伝えたかっただけなのかもしれないが。
 西村は自分の選択に妙に満足な気分を味わった。

 


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★ コメント★
治った〜(^−^)v
やけくそまぎれにパソコンもう一回だけチャレンジしてみたら、なんだかスムーズに入力できました。
でも怖いのでちょっと短め(笑)
とうとう西村が壊れた回だったので、パソコンも壊れてみたかったのかも(笑)

◆恐ろしいな〜西ヤン!パソ破壊の恐れありなんて(笑)・・・i o



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