ココニイルコト
ー番外編―


「で、その後はどうなわけ?」
 昼下がりの午後。
 リビングでゆっくりと紅茶を飲み干すと、おもむろに春子が泰志に問うた。
「・・・・・・どうって別に・・・・・・」
 泰志は春子の問わんとしていることは分かっているが、実際達也との間に気持ちの進展以上のものがないのだから、言葉を濁すしかなかった。
「別になわけないでしょ!?あんなにラブラブになったくせに、まだ何にもないわけ?」
「お前・・・・女がそんなこと口にすんなや」
 泰志は呆れ半分、照れ半分に、くしゃりと前髪をかきあげると片膝を抱えてソファに背をもたせかけた。
 そのまま膝小僧に顎をのせてムクレタように口を尖らせる。
「いいえ、口にさせていただきます。達也の恋を応援するってはっきり決めたんだから、達也には絶対泰志さんと幸せになってもらいますからね」
 そんなノーコメントな泰志の姿勢にめげることなく、春子はさらに詰め寄ってくる。せっかく土日を利用してまたまたお邪魔虫なのを覚悟でわざわざ大阪まで出てきたのだから、何も聞かないで帰るわけにはいかないと、かなりの意気込みである。
 バンッとテーブルを両手で叩き、泰志と春子の間にあるテーブルを今にも乗り越えてきそうな勢いだ。
「そんなこと言うたかってなぁ・・・・・・」
 泰志もほとほと困り果てているところだったのだ。
 気持ちは達也のこと好きだと自覚したとたん、泰志にしても男なわけで達也を抱きたいと思う。
 達也も男なわけで泰志を抱きたいと思うというのだから、お互いの意見がかなり真っ向から正面衝突してしまうのだ。どちらもお互いを抱きたいのであれば、話が進むはずがない。
 いつも攻防戦の果てに疲れ果てて眠ってしまって気がつけば朝になっているというパターンが続いている。
 泰志がどういって春子を納得させるべきか頭を抱えて悩んでいたら、トントンと軽い足音とともに達也が二階の寝室から降りてくる姿がドア側に向かっている春子の視界にゆっくりと入ってきた。
 まだ寝ぼけ眼のままの達也が、寝癖のついた髪をうざったそうにくしゃくしゃとよけながら、パジャマのままで降りてくる。
「あら、おはよう達也。もうお昼すぎてるけどね〜」
 寝ぼけながらリビングに入ってきた達也に春子がニッコリとあいさつをする。
 寝ぼけたままの達也は、それには返事をせずに泰志の姿だけを確認すると、そのままリビングのソファに座っている泰志の側に腰を降ろすと、おもむろに泰志の膝を枕に自分の体をゴロンと横に向けてしまう。
「お、おい、達也!何寝ぼけてるねん!起きろ、アホ!春子きてんねんぞ!」
「え?」
 慌てて泰志が達也の頭をどけようとすると、達也がその膝にしがみ付いたままの格好で、首だけリビングの反対側のソファに目を向けた。
「・・・・・・やっぱりラブラブじゃないの」
 春子の視線が恨みがましく泰志に注がれる。
 心配してきた自分の立場はいったいなんだったのかと思うほど、達也は相変わらず泰志しか見えていないようだ。
「なんや、春子来てたんか?」
 ブツブツと文句をつぶやいている春子のことを気にする風もなく、達也はそのままべったりと泰志の膝に張り付いている。誰がどう見ても甘えている恋人同士にしかみえず、春子は心配していたはずなのに、そのラブラブっぷりに当てられて、スックとソファを立ち上がると、手元のバッグを掴んだ。
「帰るわ、あたし。お邪魔のようだし?いい?そんなにラブラブなくせに、何の進展もないなんて納得しないわよ、あたし。次に来るときにはちゃんとした報告期待してるからね、泰志さん!」
 達也には惚れた弱みで当たることができないぶん、泰志に八つ当たり半分にそういい捨てると、春子はすばやくリビングを出て玄関へと走っていってしまった。
 バタンとドアが閉まる音がして、静止に立ち上がろうとした泰志が達也をその膝からどかすより早くに、春子の姿は消えてしまったようだった。
「なんや?あいつ何しにきてたん?」
 達也がまだ寝ぼけたままの顔で泰志に問うてくる。
 まさか自分たちの進展具合を確認しにきたとは言えずに、泰志は力なく首を振った。
「・・・・・・浮気はあかんで、泰志さん。春子といえども二人っきりになんかならんといてや」
 その様子に何を勘違いしたのか、達也が見当違いの嫉妬を剥き出しにしてくる。
 膝にしがみ付いていた手を泰志の腰に回し、ぎゅっと子どものように抱きついてくる。
「アホ。春子は様子伺いにきただけや。なんのかんの言ってお前に会いたいだけやん。俺はついでに顔見て帰るぐらいのもんやで」
「それでもあかん。俺以外を見んといて。泰志さんは俺だけ見てて。誰も見たらあかん」
 子どものような我儘を言いながら、そのまま泰志の顔を両手で自分の方へと膝元に寝転びながら達也が引き寄せた。
 無理やりの態勢で屈まされてのキス。
「イテテ、ひっぱるな髪を。こら、達也」
 キスが終わるとさらに泰志を引き寄せようとする達也に、泰志の静止の言葉が入る。
「やろうよ、泰志さん。こんな時間にいるってことは今日バイト休みなんやろ?」
 下から泰志のことを熱っぽい目で見つめながら達也が諦めずに手を伸ばしてくる。
「やろうって、また喧嘩になるだけやんか。俺もお前もどっちも譲らんのやからできるはずないやろが?」
「・・・・・・俺いいで?泰志さんが俺のこと気持ちよくしてくれるんやったら別にいいかなって思いだしたんや」
「まじで?」
「まじで」
 その言葉を証明するかのように、達也は無防備に泰志の膝元でゆっくりと目をつぶった。
 泰志がそっと達也の顔の輪郭を指でなぞる。
 いつもならそんなことは自分がするとばかりに抵抗する達也が、じっと大人しくされるがままになっている。
 泰志の胸の内は達也を愛しいと思う気持ちでいっぱいになる。
「達也、好きやで」
 そっと膝から達也の頭をはずすと、そのままソファに寝転がせて、自分は床に膝をつき泰志が達也に口付けた。
 ゆっくりとしたキスは、だんだんと深くなっていく。
 お互いを貪るようなキスに変わっていくと、突然泰志の首に達也が下から手をのばしてしがみ付いた。
 バランスを崩して泰志が達也の胸元に倒れこむ。
 そのまま器用にくるりと上下の位置を入れ替えると、達也はびっくり眼で自分を見上げている泰志にニヤリと微笑んだ。
「なーんちゃって。そうそう簡単に主導権渡すわけないやん?いただきやな〜」
 そう言うとキスで力の入らなくなっている泰志をやすやすと組み敷くと、達也はせわしなく器用な指を動かし始めた。
 手で唇で的確に泰志の感じる弱いところをついてくる。
いつの間にそんなに研究してるのか、達也の愛撫はどんどんと技術をあげていっている。
「ま、待て、達也!騙しうちや!」
 あまりの上達具合に感心して流されかけた泰志は、すんでのところで理性を取り戻し、慌てて達也をとめに体を起こした。
「騙しうちでもなんでも、手にいれるで。そのために毎日毎日泰志さんの弱点研究してきてんからな。今日は観念してもらうで」
「こらっ!」
「黙って。キスできへんやん」
 文句をずっと言っていそうな泰志の口を、深いキスでふさぐと、達也は再び泰志を征服しはじめた。
 息も絶え絶えになりながら、泰志は手放してしまいそうな意識をなんとか繋いで、頭上にあったタウンページに手を伸ばした。
 ぐっとそれを掴むと容赦なく達也の上に振り下ろす。
 それは達也の背中に見事にヒットした。
 グホッと息を吐くと、達也は痛そうに背中を押さえてソファの下に蹲る。
「痛ってぇ〜何すんねん、泰志さん」
 恨みがましい目で達也が泰志を見上げてくる。
 その目は半分涙目になっていた。
「騙まし討ちなんかでやられてたまるかっちゅーねん。仕切り直しや。続きはまた夜な」
 泰志は綺麗に微笑むと、悔しそうに床に蹲ったままの達也の髪に、一つキスを落とした。
 たったそれだけのことでつい今しがたまで怒っていたはずの達也の顔がニコニコとする。
 人はそれを惚れた弱みと言いましょうか。
 達也は泰志に約束のキスをねだるために、両手を伸ばした。
 ほどなくして泰志のキスが降りてくる。
 結局この二人、何がどうころがってもラブラブなわけで。
 さてこの勝負、いったいいつになったらつくのやら・・・・・・?それは神のみぞ知る。



おわり
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★ コメント★
番外編はなんか中途半場なところで終わってしまいましたが、まぐにはやっぱりやおいは書けないみたい(^−^;)
これ以上は無理でしたわ〜ヒロカワ様(笑)
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