−月下美人−Act.13
                 −つぶら


 「だ、か、ら、俺はあくまで代理だっつってんだろーが、爺ども!」
 会議の最中に痺れを切らした暁は、目の前のテーブルをドンと叩き、叫んだ。
 この数日、何度も交わされている議題。
 鳥王の処分についてである。
 暁はあくまでも自分は鳥王の代理であると言い張って譲らない。
 鳥王が姿を消し、町は混乱に陥っている。
 鳥王の目的を知るものたちすべてが脅えている。
 鳥王のせいで戦になることを。
 平和に花園との話し合いを持ち、貴重な花園の女たちを手に入れるためには、鳥王の存在はもはや邪魔なものでしかない。
 長老たちの中には一刻も早く鳥王の存在を抹消し、縁のない状態にしておきたいと考える者も多くいる。
「言葉が過ぎるぞ、暁。落ち着いて座るんじゃ」
 長老の中でも最年長であるが意気込む暁にため息をつきながら手で制す。
 白髪に長い髭。
 恰幅のある体型で、温和な表情が見るものに安心感を与える。
 過去長であった時の功績や最年長ということもあり、長老会の中で彼の発言力は群を抜いていた。
「けどよ、鳶ジィ、この分からず屋どもにはこれぐらいいわねーと」
「いいから座れと言うとる」
 鳶になだめられた暁は、渋々と腰掛けた。
 鳶はもっとも鳥王のことを気に入っている長老で、鳥王を長へと押したのもこの鳶である。
 ずっと黙秘してきた鳶が口を出してきたということは、悪い結果にはなるまいと暁も長老会の成り行きを見守ることにした。
「鳶、鳥王を長へと押したのはあなたの言葉の力によるところが多い。確かに鳥王はあなたの言うとおり優秀な長でした。一族を守り、常に彼は勝ってきた。いかなる戦いにも。一族はあなたの言葉どおり彼を長にしてから繁栄してきた。だが、今回のことはその功績と引き換えにしてもあまりある行い。それをどうお考えか?」
 長老の一人、もっとも公平な男であるが鳶へと冷静に問う。
 羅紗はどちらをひいきすることもないが、彼の冷静な目で見たところでも鳥王の分が悪すぎるらしい。
「今回の行いとはどういった行いか?今の鳥王は謹慎中の身。その身がどこへ行こうとそれは一族には関係のないこと。それではいけまいか?」
「何をそんな子ども騙しなことを!?そんなことを花園の王が納得するはずがない。万が一鳥王が花園に辿りついたとして、月乃を連れ戻すようなことがあれば、そんな言い訳は聞き入れてもらえまい。花園と全面戦争になればどうなるかぐらいあなたにも分かっておられよう?」
「あれは賢き者じゃ。そんなことはしまい。月乃を連れ戻すようなことがあればここへは決して戻らぬだろう」
「ではやはり、暁を長に?」
「それは暁が納得しまい」
「ではどうすると!?戻らぬものを待ちつづけるなぞ一族が衰退への道を辿るようなものではないか?」
 そうだそうだと次々と羅紗の言葉に同意の声があがる。
「わしは待ちたいと思う」
 鳶の言葉に、部屋中がシンと静まりかえる。
 誰もが鳶の言葉を理解することができなかった。暁以外は・・・・・・
「待つとは?」
「鳥王が戻ってくることを待ちたいと思う」
「あなたはさっき決して戻らぬと言ったばかりではないか?矛盾している、あなたの言い分は!」
「一人で戻ってくるのを待つと言うんじゃよ。一族を愛する気持ちがあれにはないと皆さん方お思いか?確かに月乃への執着は尋常ではない。だが一族をあれはかけがえのないものと思っているはず。風王のことも。その気持ちを信じてわしは待ちたいと思う」
「・・・・・・猶予はどのぐらいか?」
「一年。一年でよい。それ以後戻らなければ、長は暁についでもらう。その決定でいかがかな?」
 鳶はそう言い切ると、ぐるりと部屋中を見回した。
 長老たちの誰もが渋い顔で黙り込んでいる。
一年。 その短い期間に全てが決まるとはとても思えない。
しかし誰もが鳶のように信じてみたい気持ちも持っていた。
鳥王を長へと決めたその瞬間から、彼らもまた鳥王を見守ってきたからだ。
「鳶ジィ・・・・・・」
 暁だけが噛み付かんばかりの表情で鳶を睨んでいた。
「お前の思うことももっともだ。だが奇跡は起こるかもしれん」
「起こるわけない!奇跡なんかっ!」
 暁は誰よりも側で鳥王のことを見てきた。
 鳥王の月乃への気持ちもずっと見てきた。
 尋常ではない執着。
 一族への思いと、月乃への思いでは鳥王の中では比べ物にはならないことを暁は誰よりも知っていた。
 鳥王が月乃を取り戻さずに戻ってくることがないことも、暁にはよく分かっている。
 鳥王が一人で戻る時、それは月乃が死んだときだけだ。
「奇跡なんか起こるはずがないんだよ、鳶ジィ・・・・・・」
「奇跡とは起こるはずがないことが起こることを言うもんじゃ、暁。まだまだお前には分かるまい。信じてみることもまた力になる」
「・・・・・・もうボケてきやがったか、クソジジィめ」
 ハッハッハッと愉快そうに笑い鳶を見ながら、暁はため息を飲み込んだ。

 
 




つづく

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***コメント***
★ ちょっとおじい様方を出してみました。登場人物多くなって嫌だったんですが、長老長老というわりには誰一人出てこないので、この辺りでちょっとと思って(^−^;)
私個人では、鳶はけっこう気に入っております。
こんなおじい様が欲しい。



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