恋にうつつのCrazy!
番外編2

成巳の愛は少々重い。
なんせ陽への気持ちを誤魔化すために、つきあった女性の数は片手ではあまるぐらい、成巳の愛情の量はすごい。
今もべったりと陽の背後から膝に抱えるようにして陽を抱きしめている。
たかが映画を見るためだけに。
休みの日は、今ではほとんど成巳のマンションで陽は過ごしている。
陽には他に友達もいるけれど、それを優先しようとすると成巳が怒るからだ。
けれども今日はどうしても、成巳を振り切って出かけなければならない用事があるのだ。
陽は意を決して背後にいるオンブお化けのような成巳を見上げながら、ご機嫌を伺うように尋ねてみる。
「なぁ、成巳。今日の午後からさ、黒木たちと買い物に行こうって約束してんだけど、でかけてもいいか?」
「駄目に決まってるだろう」
「何で?」
「お前の貴重な休みは恋人である俺のものと決まっている。友達なんかと遊ばなくてもいいんだよ」
「でもずっと前からの約束なんだから、しょうがねーじゃん」
「却下だ」
「すぐ戻ってくる。一時間で戻ってくるし、頼むよ、なぁ、成巳」
「駄目だ」
 頑なな成巳の態度に、気の短い陽はだんだんとイライラとしてくる。
 自分を抱きしめる成巳の腕をバリっと引き剥がすと、冷たい目線でチラリと見上げ、成巳が決して逆らわれないだろう言葉を準備する。
「・・・・・・そんなこと言うなら嫌いになるぞ」
「・・・・・・」
 陽のその攻撃に、成巳は見事固まってしまった。
「嫌われたくないなら、一時間の外出の間大人しく待っとけるな?」
「・・・・・・」
 成巳はまだ固まったまま、陽のことを情けない表情でじっと見ている。
「ちゃんと一時間後に帰ってくるからさ、悪いな、成巳。おっ、ちょうどいい時間じゃねーか。んじゃ、ちょっと行ってくるわ」
「ま、待て、陽!」
 固まったままだった成巳がハッと我に返り、陽を止めようとしたときには、すでに小猿のようにスバやい陽は玄関の方で靴を履いていて、成巳が玄関に駆け寄った時には無情にも目の前でドアがバタンと閉じられてしまった。


「ふぅ〜なんとか誤魔化せたかな?ちぃと可哀想だけどこればっかりはしょうがねーよな。なんせ、成巳の誕生日プレゼントを選びに行くんだからなぁ。本人がついてきてちゃ、驚かせれねーじゃん」
 成巳本人はすっかり忘れているようだけれど、今日はなんと成巳の誕生日なのである。
 陽はちょっと前から成巳にそれとなく欲しいものなどないかなどリサーチを続けていたのだが、成巳ときたら「欲しいものは?」と聞かれると、「陽」と間髪いれずに答えるのだから、何の参考にもなりはしない。
 そこで、黒木の登場である。
 成巳の下僕である黒木ならば、成巳の欲しそうなものも分かるに違いないと、今日無理やり買い物に付き合わすことにしたのだ。
「お、待たせたな、黒木」
「・・・・・・」
 待ち合わせ場所にやってきた陽を見ると、黒木は用心深く陽の後ろに回りこみ、キョロキョロと辺りを見回した。
「何だよ?」
「いや、杉本がこっそりつけてきてて俺はお前と買い物なんていう大それたことをするのを見つかって、どんな目に合うのかと・・・・・・」
「なんだそりゃ?」
「お前はなぁ知らないだろうけど、お前と体育のときに組み手を一緒にしたからといって、昨日坂本が半殺しの目にあったという情報が入ってきてるんだぞ。俺なんてただでさえお前と同室だから、いつもいつも帰る間際には睨みきかされて、毎日生きた心地がしないんだからな」
「はぁ?何だ、そのおおげさな話は?」
「おおげさでもなんでもねーよ。お前と両思いになってからの杉本大先生はほんと恋愛ボケという名に相応しいぐらい、おかしくなっててだなぁ、お前の友達の俺たちは被害被りまくりなんだからな」
「・・・・・・まじで?」
「まじで」
 真剣に黒木が頷く様子に、嘘を言っているようには見えない。
 陽は嬉しいやらどうしたらいいのやらと複雑な表情で鼻の頭をポリリっとかいた。
 そう思う自分もかなりの恋愛ボケだなぁと自覚する。
「ごめん、今度言い聞かせとく」
「ば、馬鹿野郎!そんなことしたら、俺が言ったのばればれになるじゃねーか!今度こそ本当に殺されてしまう!」
「・・・・・・そういうもん?」
「そういうもんなんだよ。とにかく、今日のこともトップシークレットだからな。俺は命がけでお前と買い物に出る気でいる」
 戦場にでも赴きそうな様子で、ピッと敬礼でもするかのように黒木が浸りながら言い切った。
「あ、悪ぃ。もう黒木とでかけるって言ってでてきちまった。ハハ」
 浸っている黒木には悪いが、すでに言って出てきてしまったので、陽は笑って誤魔化すしかない。
「ハハっじゃねー!お前、明日の俺の命はなくなったも同然じゃねーかっ!」
 その言葉を聞いた黒木は目を剥きながら、いまにも倒れんばかりの勢いである。
「・・・・・・健闘を祈るわ」
 真っ青になる黒木に、陽は形ばかりに十字架を切ると、ペロリと舌を出した。
 ヒィーっと叫んだ黒木が、その後生気のないゾンビのように街を彷徨ったのは言うまでもない。
 そんな黒木を連れての買い物は、困難を要し、陽は黒木に頼ろうとした自分をひどく後悔をしたのだった。


「ただーいまー」
 一時間で戻ると言ったけれど、ゾンビのような黒木を連れての買い物はかなりの時間をくい、ようやく納得のいくプレゼントを買ったときには、すでに五時間は経過していた。
 待たせている成巳がどんな状態になっているのか分からないので、一呼吸してから陽はドアを開けた。
「痛っ!」
 ドアを開けて中に慌てて入ろうとしたら、何かにぶつかってしまう。
 擦った額を確認しながら前を向くと、成巳が目の前に立っていた。
「おかえり」
「た、ただいま。遅くなって悪かったな。ちょっと買いものにてこずって・・・・・・よく俺が帰ってくるの分かったな?足音でも聞こえたのか?」
 冗談っぽく成巳に話かけるが、不機嫌な成巳はぎゅっと陽を抱きしめてくる。
 そっと頬に手を当てられて、ゆっくりと顔を成巳の方に上向かせられる。
 キスつもりらしい成巳のその手の冷たさに、陽は驚いて体を押しのけた。
 もうすぐ冬になろうかというこの時期は、夕方はよく冷える。
 外から帰ってきたはずの陽の頬は冷たくて当然なのだが、家の中にいたはずの成巳の手は、それよりもまだ冷たい。
 まさか・・・・・・という思いで陽は成巳を見上げたまま尋ねた。
「おい、成巳?遅くなって悪かったけど・・・・・・もしかして、お前、俺が出て行ってからずっと玄関で待ってたんじゃねーだろうな?」
「待ってたら悪いか?」
「悪いかって・・・・・・馬鹿じゃねーの?帰ってくるって俺言ったじゃん!なんで玄関でずっと待ってるなんて馬鹿なことしてるんだよ?」
「待ちたかったから。お前が戻ってくるのを少しでも早く迎えたかったから、ここで待ってた」
「メシは?メシは食ったのか?」
「食べてない」
「はぁ?子どもじゃねーんだから、そんなのちゃんと食えよ!」
 心配になって怒り出す陽に、成巳は切ない気持ちを持て余す。
 そのままもう一度陽をぎゅっと腕の中に抱きしめてしまう。
「俺はお前がいないとどうしようもない。お前が側にいないと俺は生きれない。だからどこにも行くな」
「・・・・・・」
 何を大袈裟な、と思わないこともなかったが、それを本気で言うのがこの男、杉本成巳である。
 本当に陽がいなくなってしまったら、不眠不休で毎日探し回って、死んでしまいそうなのがこの男である。
 買い物ぐらいと思う自分の気持ちと、片時も側を離れたくない成巳の気持ちとの重さには確かに差がある。
けれど・・・・・・陽は小さく笑いをもらし、冷たくなった成巳の手にそっと息を吹きかけてやる。
それからお詫びに小さなキスを一つ。
 仲直りにプレゼントを渡して、成巳の誕生日祝いをしよう。
 こんな成巳の激しい気持ちを受け止めて許容できるのは自分ぐらいのものだろう。
 それでもこんな成巳を愛しいと思ってしまう自分も結構Crazyなんじゃないかと思う今日この頃の陽であった。






おわり

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★コメント★
恋クレ番外編2です♪
どんどん成巳の恋ボケはひどくなっていくばかりですねぇ。なんだかちっと情けない人になってきているのが心配です(笑)
ま、いいか(^−^;)





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