【バレンタイン戦争】
バレンタインの翌日
「・・・・・・フミ?」
フミに掴まれた手を凝視しながら、ヒコがフミの名を呼ぶ。
無意識に掴んでいた手を慌てて離しながら、フミが何でもないと言うように小さく頭を振った。
フミの触れたところが熱を持っているみたいにヒコの心を侵食していく。
お互いにぎこちなく視線をはずしながら、ヒコは席へと戻っていった。
それを側で見ていたユキは渋い表情になっていく。
ヒコとフミの間に流れる空気の微妙な変化。
それはユキの望む変化ではない気がしてならない。
フミの中で何かが変わっていっている?
そんな気がしてならないのだ。
無言のまま三人は並んで家までの道のりを歩いた。
ユキとヒコはチラチラと無言のままとぼとぼと歩き続けるフミを見ている。
聞きたいことがあるのに、聞こうとして口を開いては何も言えずにまた閉じるという感じで。
門を開けてフミが家の中に入っていくのを見届けてから、ユキが後ろにいるヒコを振り返った。
「このまま何にも聞かないつもりなのかよ?」
ユキが不機嫌そのままにヒコに問う。
ヒコはそんなユキの不機嫌の理由を理解しているのか、小さく首をすくめて見せた。
「聞きたくても、フミが口を割らなきゃしょうがないだろうが」
「ていうか、何だよ!?お前らなんか態度変じゃねーか!?なんかやな感じの空気が漂ってるのは俺の気のせいかよ!?」
帰り道にずっと頭の中を支配していた考えが消えないで、ユキの気持ちを苛立たせる。
黙っていても、フミがヒコを意識している様子がひしひしと伝わってきたからだ。
「・・・・・・さぁな。さっきのフミには俺もびっくりした。朝倉と何かあったのは確かだな。今の俺に縋るぐらいの何かが・・・・・・ま、そういう風にフミを育ててきたから当たり前といえば当たり前なんだけどな。困った時は俺を頼るしかないんだよ、フミは」
ユキの言葉をおもしろそうに聞き流しながら、ヒコが軽くあしらう。
「悪魔みてーな奴、お前って。実の兄弟ながら怖くなるね。いったいどんな長期計画でフミのこと狙ってたんだよ」
「物心ついた時からさ。フミは俺なしじゃ生きてけないんだよ」
ニヤリとヒコが自信満々に笑う。
さっきの縋りついてきたフミにさらに確信を得た。
ヒコの気持ちを理解した上で、それでもヒコを求めてきたのだ。
あともう一押しというところだろうか。
そのためには朝倉と何があったのかを知っておく必要がある。
「さて・・・・・・どうするかな」
部屋へ戻ると、フミは不貞寝するようにしてベッドにもぐりこんでいた。
起きているとつまんないことを喋りそうな自分が嫌だからだ。
「体調でも悪いのか?」
心配そうに声をかけてきたヒコの気配にビクリとする。
「・・・・・・大丈夫。眠たいだけだから。ほっといてくれよ」
「体調が悪いんじゃなかったら、母さんが今日は遅くなるみたいだから、飯の用意するの手伝え」
布団をかぶってしまっているフミの少しはみ出た髪の毛をくしゃりとなでながら、ヒコが言う。
「眠いって言ってるだろ」
もっと深く布団をかぶりなおして、フミが小さく言い訳する。
「眠いぐらいで夕飯の手伝いが免除されると思うなよ」
ヒコが布団の上からフミの頭をポンポンと促すように叩く。
それにしぶしぶと布団から顔だけ出して、フミが口を尖らせる。
「・・・・・・ケチ」
「今日はお前の好きなおでんにしてやるから、文句言わずに起きてこい。ちょっとなら日本酒も飲ませてやる」
「まじっ!?」
ヒコの言葉に、ガバっと体を起こし、フミが嬉しそうに叫んだ。
フミは何よりもおでんが好きだった。
そしてそれと一緒にこっそり飲む熱燗も。
ただしそんなことができるのは母が遅く帰ってくる日か特別な日だけである。
それが今日はあっさりと許可されているらしい。
「ああ」
ヒコが小さく笑いながら頷く。
「じゃ、手伝う!」
ゲンキンなもので、夕飯が自分の大好きなおでんな上に、一杯やる許可まで出たとあれば、不貞寝しているのもおしくなるというものだ。
ヒコがおもしろそうに目を細めて自分を見ていることなど気づかずに、フミは意気揚々と布団を捲り上げてキッチンへと降りて行った。
「さて、素直に吐くかな?」
勢い勇んで降りていくフミの後ろ姿を見送りながら、ヒコが小さくつぶやいた。
【つづく】
★あと三回宣言をしたまぐですが、どうも無理な気がしてきました・・・。
春になってもいいかなぁ・・・(T.T)
あはは〜って感じで。どんどんキャラが勝手に動き出してるよぉ〜
未成年が酒飲むな〜(>.<)
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