【バレンタイン戦争】

バレンタインの翌日
 
 キーンコーカーンコーン
 無常にも昼休みを告げるチャイムがフミの頭上に鳴り響く。
 机に突っ伏したまま現実逃避を続けていたけれども、授業は四時間終わってしまい、とうとう魔のランチタイムがやってきた。
 重い足取りのまま、フミは覚悟を決めて教室で自分を待つ加藤紗枝の元へとフラフラと歩いていく。
 その後姿をユキとヒコが心配そうに見守っているのに、チラリと視線をよこしたけれど、何も言わないまま哀れなぐらい力なく教室を出て行ってしまった。
「・・・・・・あれどう思う?断れると思うか?」
 ユキがヒコに意見を求める。
 ヒコは静かにずっとフミの歩いていった方向を見たまま、何も言わない。
「無理だよな、フミにそんな決断・・・・・・」
「たぶん大丈夫だよ。フミはそんなにいいかげんな奴じゃない。それにたぶん・・・・・・」
 ヒコは考えるように言葉を発したまま、視線を黒板の上にあるスピーカーへと向けた。
「たぶん、何だよ?大丈夫って何を根拠に?断れるならとっくに断ってるだろうし、断れないのがフミの優しさじゃねーの?俺ら行かなくてマジでいいのかよ?」
「・・・・・・朝倉がたぶん出てくると思う」
「朝倉?朝倉にフミのこと干渉させるのかよ!?何考えてんだよ、ヒコ!?」
「人のことを役立たず呼ばわりしたんだ。さぞやつは役に立ってくれるだろうさ。せいぜい利用させてもらおうじゃないか。俺たちはフミの手前出て行くわけには行かないんだからな」
 宙を睨みながら、ヒコが唸るようにつぶやいた。
 
「お待たせ、山上くん!」
 五組にフミがたどり着くと、教室の中から小走りに笑顔満面で加藤がフミに向かって走ってくる。
 手には抱えるぐらいの大きめの弁当箱を持っている。
 フミは無言でそれに手を伸ばすと、加藤の手からそれをとりあげ、代わりに抱えて歩き出した。
「ありがとう」
 重いからフミが気を利かせてもってくれたのだということが分かって、加藤紗枝の顔がますます嬉しそうに輝く。
 こういう小さな優しさを彼女はずっと見てきていた。
 口に出すわけではないけれど、気が付くと優しい気持ちでいっぱいになる。
 フミの側にいるとそんな気分になる。
 チラリと横に並んで無言で歩くフミを見る。
 無造作になった髪をバリバリと掻き毟りながら、何度も首を振っている。
 彼女とのはじめてのランチで浮かれている様子でもない。
 朝から何か言い出したそうにしているフミの様子は気になるけれど、やっと叶った幸せを手放すことになるかもしれないなんて考えたくもない。
 加藤紗枝はチラリと脳裏をよぎった考えを否定するように頭を大きく振った。
 もし自分がフミに何かを言う機会を与えてしまって、フミから別れようなんて言葉が出てきたりしたら怖いから、加藤はいつにもまして喋り続けた。
 たどり着いた先の中庭は冬だけれど、日の光が心地よくポカポカとしている。
 ここでフミとランチをするのも彼女の夢だった。
「ここね、すごく暖かいの。冬はここでランチしたかったんだ〜。夏はね、家庭科室がクーラーが聞いて涼しいし、人もあまりこないからお勧めなのよ。夏はそこで一緒に食べようね」
 フミの手を引いて芝生の上に腰を下ろしながら、ニッコリと笑う。
「・・・・・・あのさ」
 ぎゅっと握り締めた手に視線を合わせたまま、フミが言いよどむ。
言葉が喉の奥で詰まったように、フミの口から出てくることをひどく拒んでいる。
 それでも言わなければと、視線を加藤紗枝に合わそうとして前を向くと、加藤の方が視線を逸らした。
「あ、お弁当広げてくれる?私お茶を入れるから。すごく頑張ったのね、朝五時に起きて。絶対山上くんに食べてもらいたかったから」
「・・・・・・あのさ、俺」
「嫌いな物ある?食べれないものとか、あ、これが好きとかリクエストしてくれたら、明日はそれを作ってくるよ?」
 フミに何かを言われることを恐れるように、加藤はフミの言葉の続きを聞かないまま弾丸のように喋り続ける。
 それでもフミは言わなければと、自分を見ないようにして喋り続ける加藤に向かって、言葉を吐き出した。
「俺、明日からは無理だから」
 フミは大きく息を吸うと決意したように一息でそういった。
「・・・・・・明日は忙しいの?」
 それでも加藤はフミの方を見ない。手元の湯気の立つお茶を入れたばかりのコップを見ている。
「違う、そうじゃなくて、明日からはもう加藤とは昼は一緒に食べれない」
「・・・・・・私と食べるの嫌?」
 震えるような声で加藤がそう聞いてくる。
 フミは慌てて首を横に振った。
「そうじゃなくて・・・・・・俺、やっぱり加藤とは付き合えないんだ」
「・・・・・・どうして?」
 聞こえないぐらいの小さな問いかけ。
「・・・・・・」
 フミは答えが見当たらないまま視線をさ迷わせた。
「・・・・・・ねぇ、どうして?」
 決して顔を手元からあげようとしないまま、加藤が応えないフミに向かってもう一度問うた。
「・・・・・・どうしてって、えっと」
 断ることだけを考えてきていたフミは、その理由についてまでは考えていなかった。
 まさか実の兄に言い寄られてて、心に余裕がないから君とはつきあえませんなんて本当のことは言えないし。
 かといって、君のことが好きじゃないからなんて言ったら、じゃあどうして付き合うことを承諾したんだって話になるだろう。
 断ることを言うだけでいっぱいいっぱいだったフミは、加藤紗枝を傷つけないうまい言い訳をまったく考えていなかった。
「たった一日しか付き合えないなら、どうして付き合って欲しいって言った時に断ってくれなかったの!?」
 初めて視線をフミに合わせながら、加藤が叫んだ。
 それに対してフミには謝る言葉以外なく、小さく頭を下げた。
「・・・・・・ごめん」
「私のこと少しも好きじゃない!?」
「・・・・・・可愛いとは思うけど、好きじゃない・・・・・・ごめん」
「まだ、今はまだ好きじゃなくてもいいから、それでもいいから、可愛いと思うなら付き合ってて!私は山上くんの側にいれるだけで幸せなんだもん!好きになってくれるまでちゃんと待てるよ、私!だから!」
「・・・・・・」
 掴んでいたコップが転げ落ちるのも気にしないで、加藤はフミへと気持ちをぶつけてくる。
 ちゃんと自分を見つめてくれていて、ちゃんと自分のこと好きになってくれた初めての女の子。
 もっとちゃんと自分もその気持ちに向き合って答えを出すべきだったと、自分の軽率さをいくら悔やんでも悔やみきれない。
 フミは返す言葉もなく、静かに頭を下げ続けた。
『一年二組、山上貴文くん。至急生徒会本部まで来てください。繰り返します。一年二組、山上貴文くん。至急生徒会本部まで来てください』
 全校中に響く校内放送で、フミの名前が告げられた。
 下げていた頭を上げると、泣きそうになっている加藤紗枝と視線が絡む。
 フミは無言のまま手にした弁当をかきこみ、食べ終わるともう一度頭を下げて呼び出された生徒会本部まで急いだ。
 




  


【つづく】



★しまった〜(>.<)
もう今年が終わってしまうわ!!
年末最後に書いたのがこんなしょぼい展開ですんません!
そしてモロに昨日まで見ていたドラマの影響を受けている自分が恥ずかしい(-.-;)
号泣ものの男女の恋愛話で果ては自殺で締めくくりみたいな、「愛してる!」を連発しまくる熱いドラマを見ていたものだから、加藤紗枝がパッションキャラになってしまった(笑)
本当はもっと派手に「付き合ってくれなきゃ死ぬ!」ぐらい言わせたくてしょうがなかったけど、そこは学園物なので我慢しました・・・・あ〜影響って怖い(^.^;)私よく見ているドラマや小説の影響をモロに受けてキャラの性格が微妙に変わるなんてことあるんですよね・・・わかってても直せません。はは。
こんな私ですが、皆様来年もどうぞよろしく~!

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